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コールセンターAI更新

AIの声は自然になったのに、なぜ返事は遅いのか

AIの声は、採点のうえではプロの録音と並ぶところまで自然になりました。それでも電話の返事には、はっきりした間が残ります。この間は1つの処理ではなく、声を作る計算・通信と再生準備・声になる前の処理の合計です。どの区間が遅いのかを切り分けて、対策を選ぶ方法を説明します。

収録ブースのマイクとヘッドホン
Photo: John Taran / Pexels

「ただいま担当者におつなぎします」。AIの電話応対が流す声は、採点のうえでは人の録音に迫る水準まで自然になりました。英語の朗読音声を人が5点満点で採点した聴取評価では、いまの方式の登場期を代表するモデルの合成音声が4.53、プロの話し手の録音が4.58でした[1]。これは自然さを採点した結果で、録音と聞き分けられるかを測った実験ではなく、日本語や電話回線での評価でもありません。それでも、こちらが話し終えてから返事が始まるまでには、はっきりした間があります。

この間は、1つの処理が作っているのではありません。声を作る計算、通信と再生前のため込み、そして声になる前の聞き取りと回答の組み立て。この合計が、受話器の向こうの沈黙です。だから「音声合成を速いものに替えたのに、間が縮まらない」ということが普通に起きます。

区間 何をしている時間か 主な対策
声を作る計算 文字から声の波形を生成する 並列生成・ストリーミング・録音との分担
通信と再生準備 音を届け、再生前にため込む 構成の見直し(合成側では削れない)
声になる前の処理 聞き取りと回答の組み立て 前段の見直し

では、自然な声を作る計算はどう速くできるのでしょうか。音声合成を速くしても、なぜ沈黙が残るのでしょうか。導入前には何を試せばよいのでしょうか。この3点に沿って整理します。

自然な声を作る計算は、どう速くできるのか?

かつての自動音声には、収録した声を細かく切って並べ直す方式が使われていました。一つ一つの音は人の声そのものでも、つないだ箇所で抑揚が途切れるため、文全体としては機械らしく聞こえました。その後広まったのが、AIが声の波形を一から作る方式です。大量の録音から「この文字の並びはこういう音になる」という対応を学習し、録音になかった文でも、抑揚のつながった声を作ります。

この方式の中でも初期に広く使われた作り方は、波形を先頭から少しずつ、前にできた部分を踏まえて順番に作っていきます(自己回帰と呼ばれます)。前ができるまで後ろを作れないため、生成には時間がかかります。

速くする方法は2つあります。1つ目は、順番に作るのをやめて並列にすることです。どの音をどれだけ伸ばし、どの高さで出すかを文全体で先に決め、決めた設計に沿って一気に生成します。この方式で、自己回帰方式と同程度と評価される自然さを保ったまま、生成を大きく速められることが示されています[2]。2つ目は、作り終わる前に話し始めることです。文の先頭から小刻みに声を作り、最初のかたまりができた時点で再生を始めます(ストリーミング合成)。生成の総量は変わりませんが、聞き手が黙って待たされる時間は縮みます。

ストリーミングには抑揚の代償が出る場合があります。日本語では、文が質問かどうかの手がかりが文末に現れることが多く、文全体の高さの流れも文の種類によって変わります。文末を知らないまま文頭を声にすると、文全体でつながった抑揚を付けにくくなります。「はい、承ります」のような短い定型文は最初のかたまりに収まるので崩れず、崩れやすいのは条件や例外を並べた長い説明文です。対処としては、読み上げる文を最初から短く切っておく方法があります(この段落は出典のある実験結果ではなく、実装上の設計方針としての整理です)。

生成そのものを減らす近道もあります。毎回同じ挨拶や保留案内には収録した録音を流し、名前や金額が変わる文だけをその場で生成する構成です。分担は一文単位にするので、一文の中につなぎ目はできません。録音は再生するだけで生成の待ちがなく、抑揚も収録時に整えてあります。定型の多い窓口ほど、録音側に寄せる余地が大きくなります。

音声合成を速くしても、なぜ沈黙が残るのか?

生成を速くしても、周辺の時間は残ります。ある音声合成サービスの公開資料では、速さを優先したモデルで短い文の声を作る計算の代表値がおよそ0.075秒とされています(あくまで代表値で、入力の長さや負荷で変わります)[3]。ここに通信の往復(およそ0.02〜0.2秒)[3]と、再生前に音をため込む時間が足されます。この区間は音声合成のモデルを替えても縮まらないので、遅さの原因がここにあるなら、見直すのは構成側です。

さらに、音声合成が動き出す前の時間があります。自動応答は、聞き取り、答えの組み立て、声出しの順で動くリレーです(並びの全体は ボイスボットの中身は、4つの技術のリレー に記載しています)。音声合成は最後の走者なので、前の2人が遅れれば、その遅れも同じ沈黙に積まれます。「合成を速くしたのに間が縮まらない」ときに疑うのは、まずこの区間です。

なお、声を速く返せるようになっても、「いつ話し始めるか」の判断は別の技術の仕事です。相手が話し終えた合図の見きわめ方は AIとの通話はなぜ会話が噛み合わないのか に記載しています。

導入前には、何を試せばよいのか?

導入前の試聴には、実際に使う文面と電話回線を使います。

1つは読みです。「10/3」は日付とも分数とも読めますし、「市場」には「いちば」と「しじょう」があります(読みを確定させる工程は、テキスト正規化と呼ばれます)。金額・日付・住所・商品名を読み上げる窓口なら、試聴では自社の商品名や住所を実際に読ませます。

もう1つは回線です。丁寧に作った声も、電話回線を通る時点で音の一部が間引かれます(帯域の狭さは 電話の音声認識はなぜ聞き間違えるのか に記載しています)。聴き比べは、パソコンのスピーカーではなく、実際に使う回線を通して行います。

まとめ

AIの返事の遅さは、声が自然になった代償そのもの、ではありません。声を作る計算は、並列化とストリーミングと録音の分担で削れます。通信と再生準備は合成側では削れず、声になる前の聞き取りと回答づくりには別の手当てが要ります。間を1つの塊として聞くのではなく、3つの区間に分けて測る。それが対策を選ぶ出発点です。

よくある質問

AIの声は自然になったのに、応答が遅いのはなぜですか?

返事までの間は、声を作る計算だけでなく、通信と再生前のため込み、聞き取りと回答の組み立ての合計だからです。音声合成を速いものに替えても、他の区間が遅ければ間は縮まりません。どの区間が遅いのかを先に切り分けます。

音声合成の自然さと速さはなぜ両立しにくいのですか?

初期に広く使われた自己回帰方式は、前にできた波形を踏まえて順番に作るため、生成に時間がかかります。その後、文全体の設計を先に決めて一気に生成する並列方式で、同程度と評価される自然さのまま生成を速められることが示されています。

音声合成の生成を待たずに応答を速くする方法はありますか?

最初のかたまりができた時点で再生を始めるストリーミング合成と、定型文は録音を流して可変の文だけ生成する分担があります。ストリーミングは長い説明文で抑揚が崩れやすいため、読み上げる文を短く切っておく設計と組み合わせます。

参考文献

  1. Shen et al. - Natural TTS Synthesis by Conditioning WaveNet on Mel Spectrogram Predictions
  2. Ren et al. - FastSpeech 2: Fast and High-Quality End-to-End Text to Speech
  3. ElevenLabs - Understanding latency
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