音声翻訳を挟むと、会話がターン制になる
日英・英日の音声翻訳で待ちが生まれる理由と、その待ちを埋めようとしたときに何を手放すことになるのかを整理します。

研究段階の音声翻訳を日英・英日の双方向で使うと、会話が明らかにターン制になりました。相手の発話が終わり、訳が出て、それから次の人が話します。重なりも相槌も入る余地がなく、やりとりの形そのものが変わります。
この待ちは、翻訳エンジンの計算を速くしても解消しません。文が訳せる状態になるまで、原文を聞く必要があるからです。話し終わりを判定する無音待ちに、さらに語順による待ちが重なります。
日本語から英語へは、動詞が出るまで確定しない
同時翻訳の遅れを測る Average Lagging は、理想的に同期した出力に対して、平均で原文何語ぶん遅れているかを表します[1]。単位が秒ではなく原文の単語数であるところに、この分野が遅れをどう捉えてきたかが表れています。
日本語から英語へ訳す場合は、動詞が文末に来ることが待ちにつながります。「行きます」か「行きません」かは、最後まで聞かなければ確定しません。否定や敬語も文末に現れるため、途中で英語を出すには後半を予測することになります。語順が逆の言語へ訳すときは動詞を待つ必要がある、と原論文も述べています[1]。
語順を保って訳すと、訳文が長くなる
英語から日本語への同時通訳を分析した研究では、原文の語順を保って訳した文と、実際の同時通訳の出力を比べています[2]。
| 訳し方 | 1文あたりの語数 |
|---|---|
| 原文の語順を保って訳す | 28.38 ± 18.66語 |
| 実際の同時通訳 | 18.73 ± 12.08語 |
語順を保った訳文のほうが、約1.5倍長くなります。語順を維持したまま意味を通すには、同じ語句を繰り返したり、訳す位置を後ろへ送ったりする操作が必要になるためです。
この比較は時間制限を設けずに作られた訳文によるもので、速さを競った結果ではありません。それでも、語順の隔たりが訳文の量にどれだけ表れるかは分かります。原文の並びに沿って訳そうとするほど、言葉数が増えていきます。
待ちを埋める方法は2つあり、どちらも何かを手放す
1つ目は予測です。対応する原文をまだ読んでいない段階で訳語を出させると、先読みが過剰になり、原文にない内容を生成する hallucination が起きると報告されています[4]。ただし同じ研究は、予測に頼らずに待ちを縮める訓練方法も提案しています。待ちを縮めること自体が、常に誤りを増やすわけではありません。
2つ目は省略です。人間の同時通訳者は、要約という技法で情報を落としながら速度を保ちます[3]。理解を妨げない範囲であれば、これは許容される技法として扱われます。速さと網羅性の両方を保っているのではなく、片方を選んでいます。
原文と訳文を画面に出しておくと、話者は自分の発話がどう文字になったかを確認できます。音声認識の誤りはここで見つかります。ただし訳文が正しいかどうかは、両方の言語を読める人でなければ判定できません。
会話の形が変わることを先に見る
待ちを完全になくす方法は、予測か省略のどちらかに寄ります。どちらも訳文の内容を、原文から少しずつ引き離します。
会話がターン制になるのは、設定を詰め切れていないからではありません。訳せる状態になるまで待つという構造から来ています。音声が選ばれるのは、電話や現場のように画面を使いにくい場面でもありますが、そうした場面では待ちの影響がそのまま会話の形に出ます。
導入を考えるときは、エンジンの速さを比べる前に、ターン制のやりとりで成り立つ用件かどうかを見ます。相槌や割り込みが要る場面では、速度を詰めても形は戻りません。
参考文献
- Ma et al., STACL: Simultaneous Translation with Implicit Anticipation and Controllable Latency using Prefix-to-Prefix Framework
- Word Order in English-Japanese Simultaneous Interpretation: Analyses and Evaluation using Chunk-wise Monotonic Translation
- Zhao et al., NAIST-SIC-Aligned: an Aligned English-Japanese Simultaneous Interpretation Corpus
- Anticipation-Free Training for Simultaneous Machine Translation