コールセンターの求人倍率は1を切っている。それでも人手不足が続く
コールセンターオペレーターの有効求人倍率は0.83倍。ハローワークの数字の上では、求職者のほうが多い仕事です。それでも現場の人手不足感が消えない理由と、AI化がその構造のどこに効くのかをまとめました。

コールセンターオペレーターの有効求人倍率は0.83倍です(令和7年度、ハローワーク求人の統計)[3]。仕事を探す人1人に対して、求人が1件に届かない。数字の上では、求職者のほうが多い職種です。それでも運営の現場では、採用の難しさと人手不足が変わらず語られます[2]。
この倍率はハローワークを通った求人と求職の比で、求人サイトや派遣を含む採用市場の全体を表すわけではありません。統計の集計上、この職種だけを正確に切り出した数字とも限りません[3]。それでも、数字と現場の感覚がここまで食い違うなら、不足の原因は「応募が来ないこと」だけではなさそうです。人手不足を、採用だけでなく、採用した人を戦力化して定着させるまでの問題として見ると、この食い違いを説明しやすくなります。なぜ一人前になるまで時間がかかるのか。AIは件数と1件あたりの負担のどちらを減らせるのか。導入は何から始めればよいのか。この順に見ていきます。
求人倍率が1を切っても、なぜ人手不足が続くのか?
採用した人は、すぐには戦力になりません。電話応対には、商品と手続きの知識に加えて、聞き取りにくい音声から用件をつかむ技術が要ります。実際、同じ職業統計の就業者調査では、特別な支援なしに一人で働けるようになるまでに必要だと考える期間を、40.4%が「1か月超6か月以下」と答えています(「1か月以下」は23.1%)[3]。数か月かけて育成する職種では、離職が起きるたびに、戦力化までの期間をもう一度負担することになります。頭数を足すだけでは、一人前のオペレーターは積み上がりません。
雇用の側でも対応は進んでいます。2025年の業界調査(回答は事業会社が中心で、応対業務を請け負う外部の事業者は含みません)では、自社の正社員をオペレーターとして配置する企業は56%あります。しかし、オペレーターの雇用形態のなかで正社員が最も多い企業は37%にとどまります[2]。正社員を配置していても、正社員中心の構成とは限りません。同じ調査では、雇用モデルによってオペレーターの平均離職率に差があると報告されています[2]。一方で、雇用形態をどう変えても、育成に必要な知識量や、応対1件にかかる作業そのものは残ります。AIが直接変えられるのは、こちら側です。
AIは、人手不足のどの部分を減らせるのか?
AI化の方向は、電話の件数を減らすか、人が対応する1件を軽くするかの2つに分かれます。
| 方向 | 手段 | 効く対象 |
|---|---|---|
| 件数を減らす | 受電の自動応対、発信の自動化 | 定型で件数の多い用件 |
| 1件を軽くする | 文字起こしと回答候補の提示、応対記録の自動作成 | 人が対応する幅広い応対 |
かかってくる電話(入電)のうち定型の用件が多くを占めるなら、自動応対で件数ごと減らせます。用件が複雑で自動化しにくいなら、人の応対を支援して1件を軽くする側から入ります。AIを導入できる4つの業務の使い分けは AIコールセンターと呼ばれているものは、4種類ある に記載しています。
「1件を軽くする」側では、支援AIによる解決件数の増加が、経験の浅い担当者ほど大きかったという測定があります。文字チャットの顧客サポート担当者5,172人を対象とした研究では、会話の内容に合った回答候補を担当者の画面に出す生成AIを導入し、1時間あたりの解決件数が平均15%増えました[1]。「解約したい」という問い合わせなら、確認する項目と案内文の候補が画面に出る、という形の支援です。増え幅は経験の浅い担当者ほど大きい一方、経験の長い担当者では解決件数の改善はわずかで、応対の質の評価は小幅に下がっています[1]。支援AIが担当者の学習を助けることも示されています[1]。顧客の側でも、言葉遣いが丁寧になり、管理者対応への切り替えを求める回数が減ったと報告されています[1]。
低スキルの担当者の文章が高スキルの担当者の書き方に近づいたことを示唆する分析も報告されています[1]。なお測定は文字チャットのもので、電話応対でも同じ効果が出るかは公開文献では確認できません。この結果を電話応対の育成にそのまま当てはめることはできませんが、一人前になるまで数か月かかる職種では、経験の浅い担当者を支えるという使い方は検討に値します。
一方で、AIに任せられない部分も残ります。定型をAIに切り出すほど、人に残るのは例外への対応、こじれた通話、規定にない判断です。件数は減っても、1件は重くなります。応対件数で評価する制度のままだと、残った仕事の重さと合わなくなります。評価のものさしと人の配置は、AI化とセットで見直すことになります。
AI化は、何から始めればよいのか?
どちらの方向から入るかを決める材料は、自社の入電データです。
- 用件別に入電の件数を集計する
- 用件ごとに、応対が定型かどうかを分ける
- 定型で件数が多い用件について、誤った処理の影響の大きさと、例外時に人へ切り替えられるかを確認する
- 条件を満たす用件があれば自動応対を試す。なければ、人の応対を支援する側から始める
- 対象を1つに絞って導入し、応対品質と処理時間を測ってから広げる
自動応対は、定型から外れた用件で行き詰まります。すべての入電を一度に置き換えようとせず、測りながら広げる手順が、この性質に合っています。
まとめ
求人倍率が1を下回っていても、人材の問題が解消しているとは言えません。採用した人が一人前になるまでに時間がかかるなら、育成期間をどう支えるかも人手不足対策の一部になります。AI化は、定型の入電を自動応対で減らす方向と、人が対応する1件を回答候補や記録の自動作成で軽くする方向に分けて考えます。まず自社の入電を用件別に集計し、どちらから始めるかを決めます。
よくある質問
コールセンターの人手不足はなぜ続いているのですか?
採用人数だけでなく、採用した人が一人前になるまでの育成期間と定着が影響しているためです。就業者調査では、一人で働けるようになるまでに1か月超6か月以下が必要だという回答が40.4%を占めます。離職が起きるたびに、育成期間をもう一度負担することになります。
コールセンターの人手不足にAIはどこまで効きますか?
定型の用件を自動応対して件数を減らすか、回答候補の提示や記録の自動作成で人が対応する1件を軽くできます。文字チャットの測定では、支援AIで1時間あたりの解決件数が平均15%増え、増え幅は経験の浅い担当者ほど大きくなりました。一方、例外対応や規定にない判断は人に残ります。
コールセンターのAI化は何から始めますか?
入電を用件別に集計し、定型かどうか、件数、誤った処理の影響、人へ切り替えられるかを確認します。条件を満たす用件があれば自動応対、なければ応対支援から入ります。対象を1つに絞って導入し、応対品質と処理時間を測ってから広げます。