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コールセンターAI更新

AIからの電話は、AIが受ける電話と何が違うのか

予約の確認や支払いのお知らせのように、AIのほうから電話を発信する場面があります。使う技術は、かかってきた電話に応対する自動応答と同じです。一方で、発信する側に回ると、応対とは異なる難しさが生じます。その全体像を整理します。

オフィスで電話をかけるビジネスパーソン
Photo: MART PRODUCTION / Pexels

予約日の前日に、確認の電話を入れる。支払いの期日を知らせる。企業がかける電話には、話す内容がほとんど決まっているのに、件数だけが多い業務が存在します。配送の在宅確認やアンケートの依頼などがその例です。

1件あたりの通話は数分で終わります。それでも件数は多く、つながらなかった相手には時間を変えてかけ直す必要もあります。この積み重ねに、多くの人手と費用がかかっています。そこで、電話をかける仕事をAIに任せて費用を抑えるという選択肢が、近年広がってきました。

かかってきた電話にAIが応対する仕組みを、ここでは受電(インバウンド)と呼びます。受電と発信の両方をまとめてAI電話と呼ぶ製品もありますが、設計上の課題が違うので、この記事では方向で分けます。この受け側の自動応答は、ボイスボットという名前でも売られています。その中身は ボイスボットの中身は、4つの技術のリレー で説明しました。AIのほうから電話をかけることは、架電(アウトバウンドコール)と呼びます。架電は、受電と同じ技術の上に成り立っています。一方で、発信する側には受電になかった難しさが現れます。

  • 架電の土台は受電と同じ4つの技術で、つまずきどころもそのまま共通する
  • 架電では、接続前(出るか)・接続直後(誰が出たか)・会話中(用件を完了できるか)の不確実性が大きくなる
  • そこから、留守番電話の判定と、AI側が会話を主導する設計が生まれる。AIであることの開示は、これらとは別に発信側が事前に決める設計条件になる

土台は受電と同じ4つの技術

電話の音声AIは、役割の違う4つの技術で構成されています。1つ目は、相手の声を文字にする音声認識です(聞く)。2つ目は、その文字から答えの文章を組み立てる文章生成です(考える)。3つ目は、できた文章を声に変える音声合成です(話す)。4つ目は、相手の発話の終わりを検出して、話し始めるタイミングを決める発話区間検出(VAD)です(間を計る)。

この4つは、こちらからかける電話でもそのまま動作します。つまずきどころも共通です。電話の音は運べる範囲が狭いため、人名や商品名を聞き間違えます。文章生成は、事実にない内容をそれらしい文で答えてしまうことがあります。答えの文章と声ができるまでの時間は、そのまま通話の沈黙になります。発話の終わりの判定を誤れば、相手の話に被せたり、逆に沈黙が延びたりします。この4つのつまずきと対策は、ボイスボットの中身は、4つの技術のリレー から辿れる4本の記事にそれぞれ記載しています。

差が出るのは、会話が始まる前の段階です。

架電で大きくなる、3つの不確実性

受電では、電話をかけてきたのは相手です。用件の当事者が自分から話しかけてきて、会話はすでに始まっており、聞く姿勢もあることが多い。架電では、この3つの不確実性が大きくなります。

不確実性 受電では 架電では
誰が応答するか かけてきた本人など、当事者であることが多い 本人か、家族か、留守番電話か、不明
会話は始まるか 相手側が接続を始めている 出ないかもしれない。出ても切られるかもしれない
相手に聞く姿勢があるか 用件があるのは相手 用件があるのはこちら。相手は準備も期待もしていない

このうち接続前の不確実性(そもそも出るか)は、かけ直しの回数や時間帯といった運用設計で扱う領域です。

つながった直後: 出たのは人か、録音か

会話を始める前に、応答したのが人なのか留守番電話なのかを、応答の音だけから判定する必要があります。判定には、手がかりを集めるための一定の観測時間が要ります。その一方で、人が出ていた場合は、判定している間ずっと相手を待たせることになります。発話の長さや間のパターンを手がかりに、9割台の精度で見分ける研究が公開されています[3]。それでも誤判定は残ります。しかも代償の重さは同じではありません。人が出たのに録音だと判定すれば無言電話になり、録音なのに人だと判定すれば留守番電話に用件を話しかけてしまいます。この判定の仕組みと、2方向の誤りをどちらに倒すかという設計は AIの電話は、留守番電話をどう見分けるのか に記載しています。

会話が始まったら: 主導するのはAI側

人が出たら、今度は会話の役割が受電と逆転します。用件を持っているのはAIの側です。目的を達成するところまで会話を運ぶのも、AIの仕事になります。決まった目的を会話で達成する対話は、研究上「タスク指向対話」として扱われます[2]。本記事では、この枠組みを受電と架電の両方に当てはめています。架電で新たに加わる「システムの側から会話を進めて目標まで導く」働きは、能動的な対話(proactive dialogue)として、応答するだけの対話と区別して研究されています[1]。台本は、枝分かれする木の形になります。想定外の返答を前提にした設計も必要になります。台本がなぜ枝分かれするのか、台本にない返答をどうさばくのかは AIからの電話は、なぜ台本どおりに進まないのか に記載しています。

会話の外側: 相手はAIと知っているか

架電には、通話が終わっても残る問いがあります。電話を受けた人は、話している相手がAIだと知っていたのか、という問いです。声だけでAIだと確実に伝わることは、前提にできません。だからAIであることは、冒頭の名乗りなど、システム側の設計で伝えることになります。人がどこまで聞き分けられるかの実験結果と、名乗りの設計は 電話の相手がAIだと、人はどう気づくのか に記載しています。

その先には、声そのものへの信頼の問題があります。企業がAIの声で電話をかける世界は、悪意ある誰かが他人の声をまねて電話をかける世界と地続きです。偽の音声を機械で見つける研究がどこまで来ているかは AIの声は、どこまで本人の声と聞き分けられないのか に記載しています。

受電と同じ土台に、架電だけの設計が乗る

使う技術の土台は、受電と架電で共通でした。違うのは会話の向きです。受電のAIは相手の用件を聞き取って答え、架電のAIはこちらの用件を伝えて返事を受け取ります。共通部品の改善は双方に応用できる可能性がありますが、実際の精度や体験は、通話の条件ごとに検証することになります。

架電では、かけない条件も設計対象になります。かけ直しの上限、相手からの拒否の反映、発信してよい時間帯をどこで決めるかは AIの電話予約を発注する前に決めておきたい条件 に記載しています。

架電の検討で受電と別に検討するのは、接続直後の判定(留守番電話か人か)、会話中の主導のしかた、そして通話の外側で決めるAIであることの伝え方です。どれをどこまで作り込むかは用途によりますが、検討リストとしてはこの3つが出発点になります。応対支援や後処理も含めた4つの業務の使い分けは AIコールセンターと呼ばれているものは、4種類ある に記載しています(この記事でいう架電は、リンク先では発信と呼ばれています)。

参考文献

  1. Deng et al. - A Survey on Proactive Dialogue Systems: Problems, Methods, and Prospects (IJCAI 2023)
  2. Qin et al. - End-to-end Task-oriented Dialogue: A Survey (EMNLP 2023)
  3. Real-Time Voicemail Detection in Telephony Audio Using Temporal Speech Activity Features
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