AIからの電話は、AIが受ける電話と何が違うのか
予約の確認や支払いのお知らせのように、AIのほうから電話を発信する場面があります。使う技術は、かかってきた電話に応対する自動応答と同じです。一方で、発信する側に回ると、応対とは異なる難しさが生じます。その全体像を整理します。

予約日の前日に、確認の電話を入れる。支払いの期日を知らせる。企業がかける電話には、話す内容がほとんど決まっているのに、件数だけが多い業務が存在します。配送の在宅確認やアンケートの依頼などがその例です。
1件あたりの通話は数分で終わります。それでも件数は多く、つながらなかった相手には時間を変えてかけ直す必要もあります。この積み重ねに、多くの人手と費用がかかっています。そこで、電話をかける仕事をAIに任せて費用を抑えるという選択肢が、近年広がってきました。
かかってきた電話にAIが応対する仕組みを、ここでは受電(インバウンド)と呼びます。その中身は コールセンターの自動応答は何でできているのか で説明しました。AIのほうから電話をかけることは、架電(アウトバウンドコール)と呼びます。架電は、受電と同じ技術の上に成り立っています。一方で、発信する側には受電になかった難しさが現れます。何が受電と共通で、何が架電だけの難しさなのかを順に見ていきます。要点は次の3つです。
- 架電の土台は受電と同じ4つのAI技術で、つまずきどころもそのまま共通する
- 架電にだけ加わるのは、誰が出るか・そもそも出るか・聞く気があるかという3つのわからないこと
- そこから、留守番電話の判定、AI側が会話を主導する設計、AIであることの開示という課題が生まれる
土台は受電と同じ4つの技術
電話のAIは、役割の違う4つのAI技術で構成されています。1つ目は、相手の声を文字にする音声認識です(聞く)。2つ目は、その文字から答えの文章を組み立てる文章生成です(考える)。3つ目は、できた文章を声に変える音声合成です(話す)。4つ目は、相手の発話の終わりを検出して、話し始めるタイミングを決める発話区間検出(VAD)です(間を計る)。
この4つは、こちらからかける電話でもそのまま動作します。つまずきどころも共通です。電話の音は運べる範囲が狭いため、人名や商品名を聞き間違えます。文章生成は、事実にない内容をそれらしい文で答えてしまうことがあります。答えの文章と声ができるまでの時間は、そのまま通話の沈黙になります。発話の終わりの判定を誤れば、相手の話に被せたり、逆に沈黙が延びたりします。この4つのつまずきと対策は、受電のハブ記事から辿れる4本の記事でそれぞれ説明しています。
差が出るのは、会話が始まる前の段階です。
架電にしかない、3つのわからないこと
受電では、電話をかけてきたのは相手です。このときAIの側には、保証されていることが3つあります。話し相手が用件の当事者であること、会話が確実に始まること、相手に話を聞く姿勢があることです。架電では、この3つがどれも保証されません。かける側にとっての、わからないことになります。
| わからないこと | 受電では | 架電では |
|---|---|---|
| 誰が応答するか | かけてきた本人など、用件の当事者 | 本人か、家族か、留守番電話か、不明 |
| 会話は始まるか | 相手側が接続を始めている | 出ないかもしれない。出ても切られるかもしれない |
| 相手に聞く姿勢があるか | 用件があるのは相手 | 用件があるのはこちら。相手は準備も期待もしていない |
この3つが、それぞれ固有の技術課題を生みます。以下、電話が進む順に見ていきます。
つながった直後: 出たのは人か、録音か
会話を始める前に、応答したのが人なのか留守番電話なのかを、応答の音だけから判定する必要があります。時間をかけて音を聞くほど、判定は正確になります。その一方で、人が出ていた場合は、判定している間ずっと相手を待たせることになります。発話の長さや間のパターンを手がかりに、9割台の精度で見分ける研究が公開されています[3]。それでも誤判定は残ります。しかも代償の重さは同じではありません。人が出たのに録音だと判定すれば無言電話になり、録音なのに人だと判定すれば留守番電話に用件を話しかけてしまいます。この判定の仕組みと、2方向の誤りをどちらに倒すかという設計は AIの電話は、留守番電話をどう見分けるのか で説明しています。
会話が始まったら: 主導するのはAI側
人が出たら、今度は会話の役割が受電と逆転します。用件を持っているのはAIの側です。目的を達成するところまで会話を運ぶのも、AIの仕事になります。決まった用事を会話で片づける対話は「タスク指向対話」と呼ばれ、受電にも架電にも共通します[2]。架電で新たに加わるのは、システムの側から会話を進めて目標まで導く働きです。この働きは、聞かれたことに答えるだけの対話とは区別して研究されています[1]。台本は、枝分かれする木の形になります。想定外の返答を前提にした設計も必要になります。台本がなぜ枝分かれするのか、台本にない返答をどうさばくのかは AIからの電話は、なぜ台本どおりに進まないのか で説明しています。
会話の外側: 相手はAIと知っているか
架電には、通話が終わっても残る問いがあります。電話を受けた人は、話している相手がAIだと知っていたのか、という問いです。聴取実験では、人は合成音声を確実には見抜けないことが示されています。声が自然になるほど、相手は自分がAIと話していることに気づけなくなります。声だけで常に見分けられるとは限らない以上、AIであることは冒頭の名乗りなど、システム側の設計で伝えることになります。人がどこまで聞き分けられるかの実験結果と、名乗りの設計は 電話の相手がAIだと、人はどう気づくのか で説明しています。
その先には、声そのものへの信頼の問題があります。企業がAIの声で電話をかける世界は、悪意ある誰かが他人の声をまねて電話をかける世界と地続きです。偽の音声を機械で見つける研究がどこまで来ているかは AIの声は、どこまで本人の声と聞き分けられないのか で説明しています。
受電と架電は、同じ技術の裏表
使う技術は、受電と架電で同じ4つでした。違うのは、会話の向きです。受電のAIは、相手の用件を聞き取って答える側でした。架電のAIは、こちらの用件を伝えて、相手から返事を受け取る側になります。同じ4つの技術を逆の向きに使っているという意味で、受電と架電は同じ技術の裏表にあたります。
裏表なので、片方の改善はもう片方にも効きます。聞き取りの精度が上がれば、受電の応対記録も架電の確認結果も正確になります。答えを作る速さが上がれば、どちらの通話でも沈黙が縮みます。
まとめ
- 架電の土台は受電と同じ4つのAI技術。そこに「誰が出るか・そもそも出るか・聞く気があるか」という3つのわからないことが加わる
- つながった直後には人か留守番電話かの判定、会話が始まればAI側の主導という、受電になかった技術課題が生まれる
- 会話の外側には、AIであることの開示と、声そのものへの信頼という設計課題が残る
- 受電と架電は同じ技術を逆向きに使う裏表の関係で、片方の改善はもう片方にも効く