Skip to main content
音声AI更新

ボイスチェンジャーの遅延は何秒まで許されるのか

声質変換の遅れは何秒までなら大丈夫なのか。自分の声を聞く場合、通話、配信での映像とのズレまで、用途ごとの目安を公開されている研究と国際基準から整理します。

木のテーブルに置かれたアンティークのストップウォッチ
Photo: Shawn Stutzman / Pexels

「遅延はどれくらいまでなら大丈夫ですか」。この問いだけでは、答えが決まりません。同じ「リアルタイム」という言葉で語られていても、用途によって見るべき基準がまったく違うためです。

この記事で扱うのは、話す内容はそのままに、声だけを別人のものに変えるリアルタイム声質変換(ボイスチェンジャー)です。マイクに声を入れてから、変換後の声が耳に届くまでの時間を遅延(レイテンシ)と呼びます。技術資料ではミリ秒で書かれますが、この記事では秒に直します(1ミリ秒は1000分の1秒です)。公開されている研究と国際的な基準から読み取れる目安は、次の3つです。

  • 自分の声を聞きながら話す使い方がもっとも厳しい。自分で音読する実験では、0.025〜0.03秒で「わずらわしい」という評価が出はじめる
  • 相手と会話する場合は、経路すべての片道でおよそ0.15秒が多くの用途で許容の目安。声を変える処理に使えるのはその一部だけ
  • 映像と一緒に配信する場合は、音と映像のズレという別の基準が加わる

では、なぜ用途によって基準が変わるのでしょうか。自分の声を聞きながら話す場合、相手と会話する場合、映像と一緒に届ける場合のそれぞれで、何秒を目指せばよいのでしょうか。この順に整理します。

遅延の基準は、なぜ用途によって変わるのか?

基準を分けるのは、変換した自分の声を自分でも聞くか、相手とリアルタイムに会話するか、映像と一緒に届けるかの3つの条件です。同じ秒数でも、測っている現象と評価の意味が異なるためです。

使い方・現象 参考値 何を測った値か
自分の声を聞きながら話す(耳をふさぐ装用の音読実験) 0.02〜0.03秒[1] 自分の声が遅れて返る条件での許容評価
外部の話者を聞く(耳をふさがない補聴器の模擬) 0.005〜0.006秒[2] 直接音と処理音が重なる条件の受聴評価。自己発話の実験ではない
相手と会話する(通信の片道) 0.15秒未満[4] 多くの用途で許容可能とされる計画上の目安
発話の乱れ(遅延聴覚フィードバック) 0.2秒前後[3] 実験条件として広く使われる遅延量
一般的なネットワーク計画の上限 0.4秒[4] これを超えない計画が推奨される値

条件も評価の意味も違う数字なので、用途を決めないまま秒数だけを議論すると、想定が食い違います。

自分の声を聞きながら話す場合、何秒を目指すのか?

変換後の自分の声をヘッドホンで聞きながら話す使い方は、補聴器をつけて自分の声が遅れて返ってくる状態に近い構造です。自分で文章を音読する補聴器の実験では、耳の穴をふさぐ装用形態で、許容できる遅延は0.02〜0.03秒と報告されています[1]。0.025秒を超えたあたりから、わずらわしいという評価が出はじめます。

さらに短い参考値もあります。耳の穴をふさがない装用形態(オープンフィッティング)では、直接届く音と機械を通って遅れて届く音が重なるため、0.005〜0.006秒という短い遅れでも、評価が「ぎりぎり許容できる」水準まで下がったと報告されています[2]。この値は外部の話者の声を聞く条件での評価で、自分の声を聞きながら話す実験ではありません。ボイスチェンジャーの自己聴取にそのまま当てはめられるかは確認されておらず、耳をふさがず、遅れた音が元の音と混ざる構成ではさらに厳しくなりうることを示す参考値として扱います。

つまり自己聴取のある使い方では、補聴器の音読実験で許容とされた0.02〜0.03秒が参照値になります。ボイスチェンジャーの経路全体に同じ値をそのまま当てはめられるかは確認されていませんが、今回引用した中で最も短い約0.02秒の公表値は変換処理内の値で、入出力のぶんを別に見る必要があります。公表値が測っている区間は ボイスチェンジャーの遅延はどこで生まれるのか に記載しています。

遅れがもう少し大きくなると、別の現象が起きます。自分の声が遅れて耳に返ってくる状態を、遅延聴覚フィードバック(DAF)と呼びます。この状態では、単語の言い直しや音節の繰り返し、引き伸ばしといった非流暢な発話が増えることが報告されています[3]。0.2秒前後の遅れは発話が乱れやすい条件として知られ、この水準を実験条件に採る研究が続いています[3]。どの遅延で乱れが最大になるかを網羅的に比べた結果ではありません。

整理すると、0.005〜0.03秒の話はわずらわしいという感覚の問題で、0.2秒前後では発話そのものが乱れやすくなります。今回引用した公表値の0.02〜0.19秒あたりは、この2つの間に落ちます。0.2秒未満であることだけでは、話しやすい遅延とは判断できません。なお、ヘッドホンで変換後の声を聞いていても、骨を伝わって届く自分の声は消えません。その仕組みは ボイスチェンジャーの遅延を縮めても、自分の声は消えない に記載しています。

通話では、0.15秒をどう分けるのか?

通話やオンライン会議のように相手と話す使い方には、国際的な目安があります。口元から相手の耳元までの片道がおよそ0.15秒未満なら、多くの用途で許容可能とされています[4](対話性の高い用途では、それ未満でも影響しうるとされます)。0.4秒は、一般的なネットワーク計画で超えないことが推奨される上限です[4]。

ただし、この0.15秒は経路ぜんぶを合わせた予算です。経路には、インターネットを通る時間、音を圧縮して戻す時間、通信のゆらぎを吸収する待ち時間が含まれます。こうしたものが0.15秒の一部を先に使うため、声を変える処理に使えるのはその残りになります。残りがどれだけあるかは、回線や構成によって変わります。0.15秒をそのまま変換処理の目標にすると、経路の合計は目安を超えます。

映像と一緒に届ける場合、何秒が上限になるのか?

カメラ映像と一緒に配信する場合は、さらに別の制約が乗ります。音と映像がズレて見えるためです。ボイスチェンジャーの処理は、このズレのうち音の側に遅延を足します。

音と映像のズレについては、放送分野に目安があります。音が映像より遅れる場合、視聴者が気づき始める水準は約0.125秒、許容の限界は約0.185秒とされています[5]。検知されうる水準を上限に採るか、許容の限界まで使うかは設計判断で、視聴体験を優先するなら検知水準の側を目安にするのが本記事の勧めです。なお、映像側を遅らせて音との同期を取る構成もあります。

まとめ

ボイスチェンジャーの目標遅延は、一つの共通値では決まりません。変換後の自分の声を聞くなら、音読実験の0.02〜0.03秒が出発点で、耳をふさがない構成ではさらに短くなりえます。相手と会話するなら、経路全体で片道およそ0.15秒を分け合います。映像と一緒に届けるなら、音と映像のズレの基準(検知 約0.125秒、許容 約0.185秒)が加わります。複数の用途が重なる場合は、いちばん厳しい条件が企画全体の上限になります。目標の秒数が決まったら、次は削れる場所です。プログラム側で削れる部分と、削ったときの引き換えは 声質変換の遅延を減らす7つの方法 に記載しています。

よくある質問

ボイスチェンジャーの遅延はどこまで許容できますか?

用途によって変わります。変換後の自分の声を聞きながら話す使い方がもっとも厳しく、音読実験では許容できる遅延が0.02〜0.03秒と報告されています。相手との会話では経路全体の片道でおよそ0.15秒、映像つきの配信では音と映像のズレ(検知水準 約0.125秒)が目安になります。

通話や配信で許容できる音声の遅延の目安はどれくらいですか?

通話では、口元から相手の耳元までの片道がおよそ0.15秒未満なら多くの用途で許容可能とされています。この0.15秒は通信や圧縮も含めた経路全体の予算で、声を変える処理に使えるのはその一部です。配信では、音が映像より約0.125秒遅れると視聴者が気づき始めるとされています。

遅延が0.2秒あるとどうなりますか?

自分の声が0.2秒ほど遅れて耳に返る状態は、遅延聴覚フィードバック(DAF)として知られ、発話が乱れやすい条件です。単語の言い直しや音節の繰り返し、引き伸ばしといった非流暢な発話が増えることが報告されています。わずらわしさの問題にとどまらないため、自己聴取のある用途では0.2秒未満でも安心はできません。

参考文献

  1. Stone & Moore - Tolerable Hearing Aid Delays II (Ear & Hearing, 2002)
  2. Stone & Moore - Tolerable Hearing Aid Delays V: Open Canal Fittings (Ear & Hearing, 2008)
  3. Ishida et al. - Delayed Auditory Feedback and Nonfluent Speech (Frontiers in Human Neuroscience, 2020)
  4. ITU-T - Recommendation G.114: One-way transmission time
  5. ITU-R - Recommendation BT.1359-1: Relative timing of sound and vision for broadcasting
LET'S START TOGETHER

Ready to
Design Your Voice?

法人向け受託開発から、コンシューマーアプリの導入相談まで。まずはお気軽にお問い合わせください。