熱が冷める前に「お客様の声」を集める。頼まず・足さず・その場で録る
顧客の声が事例ページに使える形で集まらないとき、「改めて頼む」「作業を足す」「後で思い出して書く」の3つの観点から集め方を見直します。

制作会社やWeb担当者が「お客様の声」を集めても、事例ページに使える内容になるとは限りません。TARVOがコエノコ(手術前に声を残すサービス)の事例ページを作ったときの経験と、そこからの見立てでは、声が薄くなる場所は3つあります。「掲載する言葉を改めて頼むとき」「本来の仕事に別の作業として足すとき」「後日、記憶を頼りに書いてもらうとき」です。もともと起きている会話をその場で録れば、このうち「改めて頼む」と「後で思い出して書いてもらう」の2つを省けます。録音と確認は、普段のやりとりの中に組み込みます。
声が集まらないとき、「お客様が話したがらないから」と決めつける前に、集め方の手順を見直します。「集めた声が事例ページに使えないのはなぜか」「後日のアンケートでは何が落ちるのか」「会話を録るなら何が要るのか」の順に見ていきます。
集めた声が事例ページに使えないのはなぜか?
声を集めることと、事例ページに使える言葉を手に入れることは別です。日本企業を対象にした調査では、2002年から2018年まで、顧客の声を何らかの形で集めている企業がどの回も9割を超えていました。ところが、2018年に声を集めていた419社のうち「十分に活用している」と答えたのは33.2%です[1]。事例ページの話を調べた調査ではありませんが、集めている会社の多さに比べて、使えている会社は少ないと分かります。
お客様が頼まれること自体を嫌がるとも限りません。米国の成人1,002人に聞いた2026年の調査では、この1年にレビューを頼まれた人のうち83%が実際に書いています[2]。ただし、ここで数えているのは口コミサイトへのレビューです。「工事の前にどこで困っていたか」「担当者とどんなやりとりがあったか」をたどる事例ページの声とは別物です。
コエノコの事例を作ったときに困ったのは、まず頼む側の気まずさでした。お客様に「掲載する声をください」と改めて言い出しにくいのです。もう一つは時間です。声を集める作業を本来の仕事に足すと、事例作りが別の仕事になり、時間が取られます。お客様の気持ちを推測する前に、頼む側の手順のどこで止まるかを見ます。
集め方を決めるときは、まず「お客様に改めて頼む場面があるか」「現場の担当者の仕事が増えるか」の2つを見ます。どちらかがあるなら、もともとあるやりとりの中で言葉を残せないかを考えます。
後日のアンケートでは何が落ちるのか?
後日書いてもらうアンケートでは、その場で話していた具体的な場面が抜けやすいと見ています。書く人は、記憶を頼りに後から文章を組み立てるからです。
その場で出る言葉の例は、コエノコの事例ページにあります。手術前に声を残したMさんは、問い合わせから収録までに間が空いていました。その理由を、収録に来た担当者と会った席でこう話しています。「顔も見たことのない人とお金のやりとりも……それがすごく不安でした。でも、こうしてお会いすると安心して」[5]。読み上げを終えた後には、「家では50文を読むのもやっとだったので、こんなに読めたんだ、とびっくりしました」という言葉も出ました[5]。申し込む前の迷いも、当日の驚きも、後日「満足しましたか」と聞いて同じ形で出てくる言葉ではないと見ています。
記憶の性質を調べた研究もあります。2種類の医療処置を受けた患者について、処置中に記録した痛みと、終わってから聞いた「全体としてどれくらい痛かったか」を比べたものです。後から聞いた評価は、いちばん痛かった時点と最後の痛みを強く反映し、処置が長かったかどうかはほとんど影響しなかったと報告されています[3]。
測ったのは痛みの全体評価で、工事中の出来事の記憶ではありません。それでも、お客様の体験の記憶に同じ傾向があるとすれば、後日の「全体としてどうでしたか」だけでは、途中の具体的な場面は残りきらない可能性があります。
決めるのは、終わってから文章を書いてもらうか、その場で出た言葉を残すかです。その場で残すなら、質問は「満足しましたか」ではなく「工事の前、家のどこで一番困っていましたか」のように、場面を聞く形にします。
会話を録るなら何が要るのか?
会話を録るだけでは記事になりません。先に決めておくのは3つです。録る前の同意、録った後の文字起こしと確認、謝礼を出すならその扱いです。
録る前には、録音することと使い道を伝えて、相手の同意をもらいます。声の権利の話は、本人の声と権利侵害の関係で扱っています。
文字起こしには音声認識(話し言葉を文字に変える技術)が使えます。ただし2022年の検証では、講演や読み上げの音声ではよく聞き取れた音声認識器が、実際の通話や会議の音声では大きく崩れたと報告されています。原因の一つとされているのは「あのー」「まあ」のような言いよどみを書き起こさないことで、載っている例でも、言いよどみが消えた整った文になっていました[4]。そこで本記事では、人が録音を聞きながら文章と照らし合わせ、言った意味が変わっていないか確かめてから記事にすることを勧めます。仕組みの詳しい話は、電話の音声認識が崩れる仕組みと誰の発言かを区別するときの注意点に書いています。
できあがりの形は、コエノコのご利用事例が一例です。本人や家族の言葉を軸に、収録の前・当日・その後の順で書いています[5]。事例のために改めてインタビューはしていません。収録の場でもともと交わされていた会話から作りました。たとえば菊池さんの事例では、当日の「音読なんて、小学生以来ですよね」という一言を、当日の様子を伝える段落に入れています[5]。
謝礼を出すなら、何に対する謝礼かも先に決めます。口コミの投稿とは結び付けません。先に挙げたレビュー調査でも、レビューと引き換えの謝礼はGoogleやYelpなどのガイドラインに反するとされています[2]。録る場面、同意の取り方、人が確かめる範囲、謝礼の扱いまでを、ひとつながりの手順にしておきます。
まとめ
コエノコの事例を作った経験と見立てでは、顧客の声が薄くなる場所は「改めて頼む」「本来の仕事に別の作業として足す」「後日思い出して書く」の3つです。集めた声が事例ページに使えないとき、お客様のやる気だけを理由にせず、頼む場面と追加の作業が手順に入っていないかを見ます。後日のアンケートで場面が抜けるなら、その場の会話を残す手順に変えます。会話を録るなら、録る前の同意、人による確認、謝礼の扱いまで決めておきます。
よくある質問
お客様の声が集まらないのは、顧客が嫌がっているからですか?
お客様が嫌がっているとは限りません。コエノコの事例を作った経験では、頼む側の気まずさや、本来の仕事に作業が増えることも、声が集まらない理由になりました。お客様の気持ちを推測する前に、頼む側の手順を見直します。
後日のアンケートでは何が落ちやすいですか?
その場で話していた具体的な場面が抜けやすいと見ています。後日、記憶を頼りに書いてもらうのではなく、もともと起きている会話をその場で残せないかを考えます。
顧客との会話を録るときは何を決めておくべきですか?
録る前に同意をもらう手順を決めます。録った後は、音声認識の結果をそのまま使わず、人が録音を聞いて確かめてから記事にします。謝礼を出すなら、口コミの投稿とは切り離します。