経理を自動化しようとすると、なぜ先に帳簿の誤りが出てくるのか
経理を自動化するために帳簿を機械が読める形に整えると、それまで気づかなかった記帳の誤りが表に出ることがあります。実際に見つかった二重計上を例に、自動化の前に何を確認するかを説明します。

会計ソフトと請求書ソフトを連携させると、仕訳は自動で帳簿に入ります。仕訳とは、ひとつの取引を借方と貸方の二面に分けて記録する単位です。自動で入るのだから正しいはず、という前提で運用は回ります。できた仕訳を人が読み返す機会はほとんどありません。ところが設定ひとつで、実際には起きていない取引の仕訳が入り続けることがあります。毎月同じ形で積み上がるため、一件ずつ見ても異常には見えません。気づかないまま期をまたげば、実態と違う帳簿のまま決算を迎えます。この誤りが見つかったのは、経理をさらに自動化するために過去の帳簿を全件集計したときでした。機械に任せる準備をする過程で、人が見落としていたものが表に出ます。
- 過去の仕訳から規則を取り出す作業は、帳簿を全体で見直すことと同じです。片側にしか計上がない勘定は、この過程で見つかります
- 連携設定が、実際の入金より前の予定日で入金の仕訳を作っていました。同じ入金が銀行明細からも入るため、構造的に二重になります
- 誤りは自動化の前に直します。誤ったまま自動化すると、同じ誤りが毎月積み上がります
自動化のためにルールを作る過程で、記帳の穴が見えます
日々の経理で見るのは、仕訳の一件ずつです。帳簿全体でどの勘定がどう動いたかを確かめる機会は、決算のときくらいしかありません。
自動化の設計は、その全体を見るところから始まります。過去の仕訳を集計し、どの取引がどの勘定科目に振り分けられてきたかを並べます。この集計は勘定科目ごとに借方と貸方を数える作業でもあるため、帳簿の形が同時に見えます。
ここで、売掛金(商品やサービスを提供したのに、まだ受け取っていない代金)の借方に計上がないことが分かりました。売掛金は請求時に借方へ計上し、入金時に貸方へ振り替えて消えるものです。貸方だけが積み上がる状態は、記帳の抜けか、別経路での二重記録を示します。
請求書の連携設定が、実際の入金より前に仕訳を作っていました
連携の設定は、項目名を読んで有効にするだけで動き始めます。どの日付でどんな仕訳が作られるのかは、できた仕訳を後から読まないかぎり分かりません。
原因は請求書ソフト側の設定でした。マネーフォワード クラウド請求書には、請求書からマネーフォワード クラウド会計の仕訳を作る設定があり、その中に「請求書に対応した入金予定の仕訳を作成する」という項目があります。この設定は、実際の入金ではなく請求書の支払期限の日付で入金の仕訳を作ります。まだ振り込まれていない時点で、入金の仕訳が帳簿に現れます。実際に振り込まれると、同じ入金が銀行明細からもう一度取り込まれます。ひとつの入金に対して仕訳が二本並ぶ状態は、設定が有効なかぎり毎回起こります。
手がかりは日付のずれでした。連携で作られた仕訳の日付は月末で、銀行明細の実際の入金日はその数日前です。金額が同じで日付だけが違う入金が並んでいたら、片方は「予定で起票されたもの」です。
同じ設定画面の「請求書に対応した売掛発生の仕訳を作成する」も有効でした。それでも請求時の売上計上は帳簿に入っていません。設定を有効にしただけでは仕訳が入らない経路があるということです。結果として、売上が損益計算書(一定期間の収益と費用をまとめた書類)に載らないまま、入金側の仕訳だけが並んでいました。
誤りは自動化の前に直します
異常は前月との差で気づくものです。毎月同じ形で入る誤りは推移に段差を作らず、何年でも気づかれないまま積み上がります。
自動化は、記帳の判断を毎回同じ手順で繰り返す仕組みです。前提が誤っていれば、誤りも同じ精度で繰り返されます。帳簿と取引に関する書類は、確定申告書の提出期限の翌日から原則として7年間の保存が求められます[3]。誤った記帳は、その期間ずっと残ります。
作業の順序は、誤りを直すほうが先になります。誤りを含む期間の記帳をそのまま規則にすると、誤りの側が「これまでのやり方」として引き継がれるためです。どこまでを機械に任せ、どこから人が確認するかの切り分けは、会計ソフトの仕訳登録は、どこまで自動化できるのか で説明しています。
規模に合った割り切りが正解になることもあります
正攻法には、毎回回さなければならない手順が付いてきます。その手順が止まると帳簿が片寄るのなら、手順の側を組織に合わせて選び直すほうが安定します。
正攻法は、発生主義で回すことです。発生主義とは、代金を受け取った時点ではなく、取引が発生した時点で収益と費用を計上する考え方です。そこで採った方針は、連携を止めて記帳は銀行明細を正とすることでした。
| 発生主義で回す | 銀行明細を正とする | |
|---|---|---|
| 期中にすること | 請求書の発行時に売上と売掛金を計上し、入金で消し込む | 入金の時点で売上を計上し、売掛金は追わない |
| 前提になる手順 | 請求書を都度確定する。下書きのまま残ると、その分の売上が帳簿に入らない | 取引先が手元で把握できる範囲にとどまる。振り込みを見て判断でき手数が少ない |
| 期末にすること | 期中に計上済みで、追加の計上は要らない | 未入金の取引を売上と売掛金に計上する |
代償は期末に集中します。この計上が決算整理(期末に、その期間の損益を正しく区切るための修正の記帳)です。法人税では、収益は原則として引渡しの日または役務の提供の日に計上するものとされています[1]。消費税でも、納税義務の成立は代金の受領時ではなく、引渡しや役務の提供の時とされています[2]。
守る手順は期末だけではありません。銀行明細を正とするなら、次を組み込みます。
- 期末:事業年度末に引渡しや役務の提供が済んで未入金の取引を、決算整理で売上と売掛金に計上します
- 翌期の期首:期末に立てた売掛金を振り戻します。振り戻さないまま翌期の入金を銀行明細から計上すると、同じ売上を二度計上します。上で見たのと同じ形の二重計上です
- 取り込みの都度:振込手数料を差し引かれた入金や相殺のある取引は、入金額が売上額と一致しません。そのまま売上にすると売上高が過少になるため、差額を分けて記帳します。期末の調整では直りません
期中の計上時期は発生主義とずれます。それでも、ここまでの手順を守って期末を締めれば、その事業年度の課税所得(法人税額の計算の基礎になる金額。会計上の利益に税法上の調整を加えて求めます)は原則として一致します。
まとめ
- 予定日で入金の仕訳を作る連携設定は、銀行明細から入る同じ入金と構造的に二重になります。手がかりは日付のずれです
- 誤りは自動化の前に直し、直した後の帳簿から規則を取り出します
- 銀行明細を正とする方針では、期首の振り戻しと入金額のずれの扱いまでが手順です
自動化の前に現状の記帳を点検する工程は、この事例に限りません。TARVOでは、こうした調査と実装を受託で承っています。詳しくは AI受託開発 をご覧ください。